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Marvel’s Spider-Man(PS4 スパイダーマン) レビュー

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それまで私はアメコミとは全く縁のない生活を送っていた。知っているのは「バットマン」くらい。あとは友達に勧められるままに映画を観た「キャプテン・アメリカ」と「スーパーマン」が凄く良かったなぁという思い出しかない。マーベルとDCの違いすらよくわかっていなかった。

当のスパイダーマンに関しては、"蜘蛛に噛まれて超人的な肉体と能力を得た人間"ということくらいしか知らなかった。本作を遊ぶまであの見た目はスーツではなく、変身能力に依るものだと思っていたくらいだ。

 

だが観てしまったのだ。昨年のE3。ソニーのカンファレンス。NYの町中をウェブで縦横無尽に飛び回るスパイダーマンの姿を。

よく知りもしないキャラクターが飛び回っているだけなのに、ドキドキとワクワクを堪えることはできなかった。将来買って遊ぶことはすでにその時点で決定していた。あのPVを観た時点で、私の心はもうスパイダーマンが放った網に捉えられ逃げられなくなっていたのだ。

 

そして時は過ぎ、今年のE3を経てようやく迎えた発売日。かつてプレイした名作「バットマンアーカムナイトシリーズ」の焼き増しではないかという不安があった。あくまでファン向けのキャラゲーだという懸念もあった。

 

だが、蓋を開けてみればそれは単なる杞憂であることがわかった。OPからエンドロールまでの間、私は確かに、弱きを助け強きをくじく、親愛なる隣人「スパイダーマン」になっていた。

キャラゲーとはかくあるべしを体現したこの1作は、既存のファンのみならず、自分のようなスパイダーマンを1ミリも知らないような人間の心も絡みとる、愛と挑戦に満ちたゲームだと言える。

 

 

スパイダーマンを知らない人間でもすんなり世界に入り込める

キャラゲーの魅力とは何か。それは漫画やアニメなど、他媒体でよく見かけている大好きなキャラクターや作品を、条件付きで自身の思うがままに動かせることにある。

本来そのキャラなら絶対にしなさそうな仕草をしてみたり、原作に添うことは無い"If"を表現してみたり。

物語の語り手が原作者からプレイヤーに移ることで、ゲームという枠組みの中ではあるものの、これまで頭の中で膨らませてきたキャラクターや作品に対するイメージを画面上に再現することができる。それがキャラゲーの魅力だ。

 

要するにごっこ遊び、2次創作であるが故、キャラゲーを楽しむには基本、原作の知識が必須となる。無いものを膨らませるのは難しいばかりか、プレイヤーがある程度の背景知識を持っていることを前提に物語が進行していく作品も多いからだ。

 

 

だがPS4版『スパイダーマン』に関してその心配は必要ない。私のような"スパイダーマンにわか勢"のような人間でもすんなりその世界に入門できるようデザインされている。

 

本作の物語はこれまで公開された作品のものとは地続きではない完全オリジナルな内容となっており、原作から流用されている設定はあまり多く無い。共通しているのはキャラクター達の名前、個々の能力程度であり、その内容も「コイツの特徴はすごく力持ち」のような1行で説明できるものである。

 

 また、設定に関して"語らず映像で説明する"という形を本作では主に採用している。

専門用語混じりのテキストをキャラクターにくどくど喋らせるのではなく、映像内の情報量を多くすることで"こういうものなのだ"と直感的に設定をプレイヤーに理解させる。「重要なのはそこじゃない」と言わんばかりに。この手法を採ったことでプレイヤーは物語に対する没入感を損なわず簡単に設定を理解できるようになっている。

 

例えばOPでは、傍受した警察の無線で起きた主人公がスパイダーマンのスーツに着替え、悪党退治に出動するまでの流れが描かれている。

無線で目覚めた後ブレスレットをつけ、そこから出る糸を使ってトーストを回収し、臭うスーツに着替えていざ出勤という一連の描写は、スパイダーマンの立場や、特徴である「糸」、スーツの設定といった物語を語る上で根幹になる内容をプレイヤーに視覚からスムーズに理解させることに成功している。この映像と物語の表現に関するこだわりはさすがマーベル原作作品。原作が制作側に愛されているという証拠の一つだろう。

 

オリジナルな物語と、直感的に理解できる設定によって、私のような"スパイダーマンにわか勢"でもすんなり本作を楽しむことができるのだ。 

 

物語そのものは序破急の全3章構成で、覆面ヒーローの王道ど真ん中を征く内容。

スパイダーマンとして悪を討つ非日常と、パーカーという1青年として夢を追うため努力する日常が並行して進行し、突如としてその2つは交差することとなる。

最終的にスパイダーマンとしてではなくパーカーとして、かつて日常の象徴だった悪を討つという展開は、わかっていてもカタルシスが止まらなかった。

 

 

 

映画さながらのスパイダームーブと、意外にも難易度の高い戦闘アクション

スパイダーマンと言ったらスパイダームーブ。両手から放たれる糸を自在に操り、ニューヨークの摩天楼をビュンビュンと軽快に飛び回る。スパイダーマンをよく知らないこの私でも知っていることだ。

本作ではそれが本当に素晴らしい形で表現されている。では一体何が素晴らしいのか。

 こういった障害物を軽々と乗り越える、パルクールのような移動が箱庭の中できる3Dアクションゲームというのは既に沢山存在する。

アサシンクリードシリーズ』や『グラビティデイズ』が代表的だろう。『Titanfall2』なんてのもある。そしてもっと言うと、システムの根幹は前作である『PS2スパイダーマン』と殆ど変わっていない。

これら既存のパルクールが可能な作品群や過去作とは異なり、本作におけるスパイダームーブがより素晴らしいものとして挙げられている理由は、「移動の滑らかさ」と「ケレン味」にある。

 

先ず移動の滑らかさについて説明したい。先程の述べた通り、本作では糸を建物に付着させることで、振り子のような独特の移動が可能となっている。それだけではなく、跳んだ先の途中で壁にぶつかった時には自動で張り付き、壁走りができるようになっている。また、点から点へ直接飛ぶ定点移動や、パルクール移動も可能である。

驚くべきところは、これら多数の移動方法がすべて優れたアニメーションによってシームレスに繋がるという点だ。

まるで"映画のワンシーンを流しているかのように"繋がり、なめらかに動く。

 

移動に使用するボタンがすべて「方向キー&R2ボタン」+αで構成されていることも滑らかさを演出するうえでの要素としては欠かせないだろう。複雑なコマンドをプレイヤーに要求させないことで意識を「移動すること」に集中させミスを少なくし、移動のテンポを一切損なわさせない。だがゲーマー向けのコマンドもきちんと用意してあるのだからインソムニアックは抜け目ない。

 

本作におけるスパイダームーブの素晴らしさを語る上で、「移動の滑らかさ」に加えて欠かせないのが「ケレン味」だ。要するに総合的な演出のことである。

上記のTwitterに挙げられた映像を見てもらえれば分かると思うが、スパイダーマンが飛び回る度に細かく様々な演出が入っている。

例えばカメラだ。画面右で平行に壁走りをしている際はカメラがスパイダーマンではなく中央に合わせられ、垂直で走っている時は壁と空が同時に入るよう自動でカメラが向く。高速ジャンプをしている時は位置を引き、振り子移動をする時は若干スパイダーマーンの目線に沿うかのような動きを見せる。

ちなみにカメラの調整はすべて自動で行われる。ただ移動するだけで、映画撮影をしているかのような気分にさせてくれる演出をゲーム側が勝手にしてくれるのだ。

 

 

演出と言えばQTEにも触れておきたい。本作にはストーリーからランダムイベントまでQTEが随所に登場するが、決してプレイヤーの没入感を損なうものではない。なぜなら、本作のQTEで求められるコマンド入力は普段の操作の延長線上にあるからだ。

拳を使う場面では戦闘と同じ□ボタン。糸を使う場面では通常と同じR2ボタンというように。また、QTEの種類そのものが非常に少ないというのも高評価だ。突然現れたアイコンに対して即座に対応しやすい。

 

良い没入感をより深いものにするQTEの例として『PS4GOW』がよく挙げられるが、こちらはカットシーンを一切用いないことでゲームとムービーの境を消し、意識の混乱を防ぐことで没入感をもたらした。一方スパイダーマンはムービーのゲームの境界は消えていないものの、ゲームの延長線上にムービーを置くことで没入感をもたらすことに成功している。

 

 

視覚的にも体感的にも「滑らか」な移動方法とそれに伴う「ケレン味」は、プレイヤーに"映像作品を動かしているような"気持ちよさを与える。あの日劇場で観たスパイダーマンのアクションを自らの手によって再現する楽しさ、喜び。

ちなみに私はスパイダーマン関連作品を観たこと無いのにもかかわらず何故か「これだよこれ!」と画面の前でつぶやいてしまった。

 

 

ヒーロー物には欠かせない敵との戦闘に関しては意外にも難易度が高い。本作の戦闘はキャラゲーにありがちな敵をポイポイ投げるように倒せる難易度ではなく、ある程度アクションゲームに慣れているゲーマー向けに設定されたやりごたえのある内容となっている。

 

ゲーム内では基本的に多対1の集団戦がメインで行われるが、登場する敵キャラの攻撃がとにかく痛い。なにしろザコ敵とボスキャラの攻撃威力が殆ど変わらないのだ。また、特定の種類の攻撃が効かない雑魚キャラも登場するから質が悪い。油断した途端に取り囲まれてやられてしまうなんていうのは日常茶飯事である。(ちなみにボスキャラは躱しにくい範囲攻撃で攻めてくる)

 

そのため戦闘中プレイヤーは常に状況を捉え、適切な選択肢をとっていく必要があるが、この選択肢がまた多く悩ましい。

スパイダーマンらしく縦横無尽に駆け回りながら個別に敵を倒すもよし、ガジェットや投げ飛ばせるオブジェクトを用い集まってきた敵を一網打尽にするもよし、場外にふっとばして無力化するもよし。

特に戦闘中に使用できるお手製ガジェットとスーツパワーは回数が制限されているものの非常に強力で、戦況を一気に変える力を持っている。ここぞという時に使いたいが、出し惜しみしていると負けてしまうので注意だ。

 

敵の強さと自身の脆さ、そして取れる選択肢が絶妙な具合で同時に介在している本作の戦闘は、他アクションRPG作品と比較しても遜色ない戦略性とやりごたえを備えており、制作会社であるインソムニアックの「スパイダーマン好きだけはなく、ゲーマーそのものを大切にしたい」という姿勢が垣間見える。

ラチェット&クランクシリーズ』など、正にこれまで自社製品で培ってきたアクションゲームに関するノウハウの結晶と言える出来栄えだ。

 

 

 

インソムニアックのスパイダーマン

正直、スパイダーマンをよく知らない自分が、スパイダーマン愛について、しかも他人が表現するその愛の形について語るというのはそぐわない気がするが、それでもこのインソムニアックによるスパイダーマンに対する愛の大きさに関しては語っておかねばなるまい。

 

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スパイダーマン活躍の舞台であるNY市街はただのミニチュア再現ではなく、活き活きとした生活感ある町並みとして精巧に描かれている。一度糸を封印し地を足につけてみればその美しさを理解できる。観光名所を巡るだけでも楽しいが、セレブが住む地帯といわゆる貧民街の描かれ方の違いなど、「アメリカ人が描くアメリカ」を感じてみるのも面白い。

また、本作では電光掲示板や看板、住民のアイテムや組織のイメージなど、商標ロゴがかなりの数登場するが、すべてオリジナルであるというのだから凄いものだ。ニューヨークで流行っていると言われても違和感が無い。

 

 


写実的に描かれているNYの町並みとは異なり、キャラクターのデザインはアメコミ風に描かれているように思える。これもまた、原作のあり方を尊重するインソムニアックのこだわりだろう。

 

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 本作では、サブミッションなどで手に入るトークンを消費することでスパイダーマンを様々なコスチュームに着替えさせることができる。コスチュームの種類は様々で、その殆どは歴代スパイダーマンのコスチュームを再現したものだ。その3Dモデルの美しさは言わずもがな。自分の好きなヒーローの姿でNYを駆け巡ることができる。

 

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 アクションRPGゲームにはおなじみの収集要素は本作にも取り入れられている。

その全ては本作におけるスパイダーマン「ピーター・パーカー」が本編以前までにたどってきた軌跡を象徴するものであり、また、スパイダーマンファンならニヤリとするようなアイテムとなっている。画像は「盲目の弁護士」からのメッセージ。分かる人には分かるのではないだろうか。

 

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その他、東映版リスペクトの有名なセリフが存在したり、アヴェンジャーズの本拠地である「アヴェンジャーズタワー」やドクターストレンジの「サンクタム」、『ジェシカ・ジョーンズ』のエイリアス探偵事務所といったMARVELの世界にしかない建造物がちゃっかり建っていたりと、いたるところに小ネタが散りばめられている。

 

にわかな自分ではこれしか見つけられなかったが、ファンは更に沢山のリスペクト要素を見つけられることだろう。羨ましい。

 

 

総評

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確かに細かな不満点はある。天気の切り替えが特定の場所からでないとできないとか、もっといろんなヴィランに活躍してほしかったとか、プレイヤーの技術を試すチャレンジモードの最高評価の基準がシビアすぎるとか、あまりに楽しすぎてエンディングを迎えたくないと思ってしまったりとか。

だがそんな不満点を塗りつぶすように、この『Marvel’s Spider-Man』というゲームは大きな魅力に満ち溢れている。キャラゲーの何たるかを抑えながら、ゲーマーへのリスペクトを忘れないインソムニアックの姿勢は、IPの魅力に依存しない新たなキャラゲーの概念を作り上げた。

スパイダーマンを知ってる人も知らない人も、ぜひプレイして欲しい名作である。